前立腺癌は、前立腺肥大症とともに、中高年の男性において注意すべき前立腺の病気のひとつです。前立腺癌の発生には男性ホルモンが関与しており、加齢によるホルモンバランスの変化が影響しているものと考えられています。
前立腺癌は主に外腺(辺縁領域)に発生します。ほかの臓器の癌とは異なり、ゆっくりと進行するため、早期に発見できれば、ほかの癌に比べて治りやすいがんであるといえます。
しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることがあります。進行すると最終的には骨やほかの臓器にまで転移することがあるため、早期に発見し、適切な治療を行うことが大切になります。
早期の前立腺癌には、癌特有の症状はありません。癌が進行すると、尿がでにくい、排尿時に痛みを伴う、尿や精液に血が混じる、などの症状がみられることがあります。
さらに進行すると、癌が臀部と腰の骨を中心としたほかの部位にまで転移します。骨に転移した場合には、疼痛があらわれることがあります。
前立腺癌は世界的にみた場合、非常に発症頻度の高い疾患といえます。とくに黒人、白人に発症頻度が高く、アメリカにおいては男性の癌の中で罹患数は1位、死亡数は2位ともっとも多い癌のひとつとなっています。
日本においては、前立腺癌はもともとあまり多くみられる癌ではありませんでした。しかし近年、もっとも増加している癌のひとつとして注目されています。前立腺癌の増加の原因としては、「日本人の高齢化」、「食生活の欧米化」、「PSA検査の普及」などが考えられています。
前立腺癌の診断には、まず「スクリーニング検査」を行います。スクリーニング検査とは、前立腺がんの可能性がある人を見つけるための検査のことです。採血のみの「PSA検査」のほか、施設によっては「直腸内触診」、「画像検査(経直腸的超音波(エコー)検査、前立腺MRI検査)を併用することがあります。
前立腺癌には、「手術療法」、「放射線療法」、「内分泌療法」など、さまざまな治療法があります。これらの治療を単独あるいは組み合わせて行います。
放射線療法は、前立腺に放射線を照射して、癌細胞を死滅させる治療法です。手術療法と同様、癌が前立腺内にとどまっている病期 I 、II 期の患者さんが対象となります。病期 III 期の場合は、内分泌療法と併用して行うことになります。
放射線療法は、手術療法に比べて身体的負担が少なく、手術を行うことができない70歳以上の患者さんにも行うことができます。
また、放射線療法は癌を死滅させる目的だけでなく、転移した癌による痛みを除くことを目的として行うこともあります。放射線療法には、体外より治療を行う「外部照射療法」と、前立腺組織内に放射線源を挿入する「組織内照射療法」の2つの方法があります。
近年、放射線の中で電子より重いものを粒子線、ヘリウムイオンより重いものを特に重粒子線と呼びます。重粒子線治療には、(1)エックス線に比べて、癌病巣に集中して照射される(2)エックス線に比べて生物活性が強く、一般の放射線が効きにくい癌にも効く(3)短い期間で治療できる、という特徴があり、前立腺癌の治療に用いられています。